「通勤ダイヤの乱れ、どう回復させている?」西武鉄道に“裏側を”聞いてみた

 都会の電車はとかく遅れがちである。朝のラッシュ時間帯には混雑や急病人救護などが原因で数分の遅れが生じることは日常茶飯事だし、人身事故で1時間あまり運転を見合わせることだって珍しくない。そして我々利用者も、どうしようもない事情をわかりつつもついイライラしてしまうのだ。「朝の遅れがなんで昼間になっても解消されていないの?」「直通運転のせいで遠く離れた場所の事故の影響を受けるなんて理不尽だ」などと――。

【表】ダイヤの乱れを回復する“イメージ図”

 でも、当然鉄道会社も手をこまねいているわけではない。少しでも早く正常なダイヤに戻すべく奮励努力している(はずだ)。惜しむらくは、その状況があまり利用者に伝わってこないこと。一体鉄道会社はどうやってダイヤ乱れを戻しているのか。その裏側を西武鉄道で運行管理の運転司令長を務める藤田浩行さんに聞いた。

西武新宿線を走る2000系の電車

◆◆◆

ダイヤの遅れを解消するためのキホン

――単刀直入に聞きますが、ダイヤが乱れたときにはどうやって回復させているのでしょうか?

藤田 この質問はよく頂くのですが、わかりやすくお答えするのが大変難しいんですよね(苦笑)。人身事故などで運転見合わせになったり、諸事情で電車が遅れてしまった場合には、その影響をできるだけ狭い範囲にとどめておく、ミニマムにするというのが基本です。例えば下り線が遅れても上り線に波及しないようにするとか、一部区間が人身事故で停まっても運転できる区間ではできるだけ電車を走らせておくなどです。

――確かにちょっとピンと来ませんね。具体的な事例で説明して頂けませんか?

藤田 例えば、簡単な例で池袋線の保谷行き下り電車が遅れたとしましょう。その電車は保谷で折り返して上り電車になるので、遅れを放っておくと上りになってからも遅れを引きずってしまい、いつまでたってもダイヤが戻らないですよね。そこで、保谷で折り返さずにふたつ手前の石神井公園で折り返すように運用を変更するんです。このとき、石神井公園からの上りの定時にあわせるようにすれば遅れは解消されます。池袋線では石神井公園や保谷、清瀬、所沢、小手指など、新宿線では上石神井や田無などが折返し可能駅。そこで早めに折り返してダイヤ通りの上り電車に当てることで遅れを解消しているんです。

――なるほど。ですが、その例ですと大泉学園や保谷で降りたい人は困ってしまいますね。

藤田 そこは大変申し訳ないところですが、後続の電車に乗り換えて頂くしかありません。ただ、比較的ご利用の多い上り方面、池袋寄りの駅でこのような折返しを頻繁にやってしまうとご指摘の通りご迷惑をおかけするので、できれば所沢とか小手指とか、下り方面の駅でおこなうようにしています。そもそも当社では電車の種別も行き先も多種多様なので、実際には例に挙げたように単純にはいきません。でも基本的な考え方は同じで、応用しているイメージですね。

朝のラッシュ時の遅れはいつ回復する?

――運転本数が多いラッシュ時間帯でも同じような対応をしているのでしょうか。

藤田 いえ、ラッシュ時間の対応はちょっと違います。ラッシュ時間帯はご利用のお客さまが大変多いですよね。だから何より大事なのは輸送力をキープすること。遅れが出たからといって折返し運転をしていたら全体の本数が減ってしまいます。ですから、多少の遅れは無理に回復せず、そのまま池袋や西武新宿まで運転するようにしています。特に朝ラッシュで上り電車の途中打ち切り・折り返しは原則ないですね。だいたい7時から9時まではこういう対応で、その後の下り電車を調整してもとに戻していくんです。

――となると、ラッシュ時に生じた遅れが解消されるのはラッシュが終わってから、ということですね。例えば8時半頃に池袋に着いた電車が折り返して所沢とか飯能に着くころに回復していくと。

藤田 そうですね。池袋から飯能までの所要時間はだいたい1時間です。遅れた電車が下りになって飯能とか小手指まで戻ってきてはじめて上りの正常化ができて、それがまた池袋に着くまでには少なくとも2時間くらいかかります。だから全部の電車のダイヤがもとに戻るまでにはどうしても2時間から3時間ほどかかってしまうんです。

人身事故が起きたときの“鉄則”

――なるほど、朝のダイヤ乱れがお昼ごろまで影響してしまう理由がわかりました。では、人身事故などで長時間の運転見合わせになった場合はどうしているのでしょうか。

藤田 実際の事例として池袋線の池袋から練馬の間の踏切で人身事故が起きたケースで説明しましょう。人身事故ですから警察の現場検証などもあり、池袋~練馬間は約1時間運転できません。これはしかたがない。でもだからといって全線で停めてもダメ。そこで最初に説明したように、石神井公園等の折返し設備や地下鉄直通電車は運転させて練馬より下りではできるだけ電車を走らせるようにするんです。そうすると、練馬より下りでは電車が動いているので都心に向かう人は練馬からの地下鉄直通電車を利用するか、所沢に戻って新宿線を使って都心に向かうことができ、少しでも利便性を損なわずにすみます。そして運転再開となったら池袋~練馬間を運転させて、その時間帯に池袋を出発する電車に充当する。そうすれば、運転再開後比較的早く通常ダイヤに戻すことができるんです。

――折返し設備がある駅を最大限利用して、運転見合わせ区間を少なくするということですか。特に練馬からは地下鉄に直通する電車もありますから、その点への留意も必要ですよね。

藤田 直通先にはできるだけダイヤ乱れを波及させずに電車を戻していくことが基本です。ですから今回取り上げたケースでは、直通電車の運行を優先することになりますね。練馬からは直通電車は極力運転することによって電車を動かしていく。そうすると運転見合わせ区間を最小にするとともに運転再開後にスムーズに定時運行に戻すことができるんです。時間帯にもよりますが、当社ではおおよそ運転再開から約1時間で通常ダイヤに戻すように意識しています。

後ろの電車が遅れているときに“待たされる”理由

――その判断には熟練の経験が欠かせないですね……。再開から1時間で通常ダイヤとはすごいですね! その間も運転本数はできるだけ通常時と変わらないようにしているわけですし。

藤田 その電車そのものは例えば60分遅れなのですが、ダイヤが乱れている時は利用するお客さまの立場だと何分遅れているかよりも、駅に着いたらすぐに電車が来ることのほうが大事じゃないですか。だからとにかく間隔を開けずに電車が来るようにする。どうしても動かせないところ以外はできるだけ走らせる。それが一番大切なことですね。

――もうひとつ伺いたいのが、ときおり遭遇する「後続の電車が遅れているため、運転間隔の調整で少々停車いたします」というアレです。先行電車に乗っていると、後ろの電車が遅れているのになんで時間どおりのこっちが待たされるんだ……とどうしても思ってしまいます。

藤田 それはもう申し訳ないところなのですが、これをやらないともっと遅れが拡大してしまうんです。例えば後続のAという上り電車が5分遅れたとしましょう。それでも構わずに先行する電車が普通に走っていると、A電車を待っている駅ではどんどんお客さまが増えてしまって、乗降に時間がかかってさらに遅れがひどくなる。5分のところが10分15分となる。そうなると後続電車もさらに遅れますし、折り返して下りになるときにも遅れが残ってしまいます。そこで、A電車の前を走る電車の出発を遅らせるんです。これが運転間隔の調整。先行電車に少し頑張ってA電車に乗る予定のお客さまもご乗車いただいてから発車すればA電車の遅れが拡大せずにすむという仕組みですね。

――先行電車に乗っていればイライラするかもしれませんが、放っておけばもっと関係のないところでも遅れが影響してしまうかも。そうなると運転間隔の調整も重要なんですね。

藤田 もちろん遅れが出た以上はお客さまにご迷惑をおかけしてしまいます。でも、その影響をできるだけ最小限に留める。路線全体を見渡して最適な運行を目指すのが我々運転司令の業務なんです。

ダイヤの回復、AIには頼れないの?

――実際にはより複雑な手順でダイヤを回復させているのでしょうが、こうした対応をする司令の仕事はまさに職人ですね。でも、お話を伺うとこうしたダイヤ回復はそれこそAIなどコンピューターに頼りやすい分野なのではと思うのですが。

藤田 そう言われることも多いんですが、現状ではAI頼みは難しいでしょうね。なぜかというと、人身事故、急病のお客さま救護も時間や曜日、その状況次第でまったく違うんです。急病のお客さま救護は必ず10分で終わるとわかっているならいいですが、それはやってみないとわからない。ラッシュ時は輸送力を優先するといいましたが、日曜の朝ならその必要はないですよね。メットライフドームでイベントがあって下り電車をご利用のお客さまが多い場合も事情が変わります。運転間隔の調整にしても、無闇矢鱈に抑止すればいいのではなくて、できるだけ大きな駅で停めたほうがいい。例えば、上り電車では中村橋で停めるならひとつ先の練馬のような乗り換え駅まで行って……とか。ひとつとして同じ状況はないですから、どうしても人が判断して指示しないとダメだと思います。

――なるほど……それだけ都会の電車の運行管理は複雑すぎるということでしょうか。最近ではさらに情報の発信も重要になってきていますよね。

藤田 当社の司令所では電車や駅との無線・有線通話がフロア中に聞こえるようにしています。そうすることで、すべての司令員が情報を直ちに共有して、必要なところに伝えることができる。それを駅や乗務員に情報を伝えて、最終的にお客さまに届きます。正確な情報をできるだけ早くお届けして、お客さまの判断に役立てて頂きたい。最近では、西武鉄道のアプリでリアルタイムの運行状況を見られるようになりましたし、それこそYahoo!などの運行情報でもかなり早く情報が出ます。そういう時代ですから、我々も情報の発信には特に意識を持っていますね。これから年末にかけては、夜から終電間際にかけて遅れが出やすい時期にもなります。安全・安定輸送はもちろんのこと適切な対応を心がけてできるだけご迷惑をかけないように、そして充分な情報発信もしていければと思っています。

写真=鼠入昌史

(鼠入 昌史)

ジャンルで探す