千葉から横浜に「旅行」する大学生の感覚

いま「若者の旅行観」に大きな変化が起こりつつあります。長年、若者の消費動向を追いかけているサイバーエージェント次世代研究所・所長の原田曜平さんは「若者が旅行をしない、という常識にとらわれないほうがいい。若者の旅行観は確実に新しい芽が出始めている」といいます――。(全3回、第1回)

「旅行には行くほう」だという9人の現役大学生の本音

撮影=プレジデントオンライン編集部
 サイバーエージェント次世代研究所・所長の原田曜平さんは、現役の高校生・大学生たちと日常的にコミュニケーションをとり、共同作業をすることで、若者の価値観やトレンド、それらの時代ごとの微細な変化を、15年以上にわたって定点観測してきました。
 原田さんは、ここ数年で、最近の若者、特に大学生の「旅行観」に大きな変化が見られるようになっていると指摘します。それらを明らかにすべく、「旅行には行くほう」だという9人の現役大学生に集まってもらい、若者の旅行観について議論しました。
 現代の若者は旅行に何を求め、旅でどんな消費活動を行っているのでしょうか。座談会の模様を3回にわけてお届けします。第1回は「旅のイメージ」についてです。
<座談会の参加メンバー>
正田郁仁 法政大学 経営学部 2年
神谷菜月 明治大学 経営学部 3年
須田孝徳 早稲田大学大学院 商学研究科 修士1年
牧之段直也 早稲田大学 政治経済学部 3年
小野里奈々 法政大学 社会学部 2年
高貫遥 明治大学 経営学部 3年
今野花音 上智大学 文学部 3年
佐藤美梨 慶應義塾大学 文学部 2年
浅見悦子 青山学院大学 地球社会共生学部 3年

海外旅行に行くかどうかは「親」が鍵

【原田】今年7月にJTB総合研究所が発表した調査結果(※)によると、ここ数年で、今まで海外離れと言われていた若者たちが、少しずつ海外旅行に行くようになってきているんだけど、みんなはどう思う? 景気が良くなって、バイト代が上がってきているからかな?

※年代別平均旅行回数を2000年と2017年で比較した場合、19歳未満の男性は年1.0回から1.3回、19歳未満の女性は1.3回から1.4回と増加している。

【浅見】私のまわりの大学生はけっこう海外旅行してますよ。

【高貫】留学する子もまわりで増えてきたし、「海外に行く若者が減っている」と言われても、実感はあまりないですね。

【原田】マクロデータで見ると、まさに僕の世代、現在アラフォーであり、就職氷河期世代でもあった「ポスト団塊ジュニア世代」が、最も「海外に行く若者」だったんだよね。それからさらに景気が悪くなり、海外に行く若者がずっと減っていったんだけど、この数年で少し若者の海外離れが復活してきているんだ。

もっと正確には、全員が海外に行こうとする時代から、行く人と行かない人が明確に分かれる時代に完全に変わった、と言えるかもしれない。都市か地方か、所得が多いか少ないか、海外に行くモチベーションが高いか低いかで、若者の「海外経験格差」が非常に大きくなっているんだと思う。

東京では偏差値が「MARCH」クラス以上の大学生は、年を追って海外留学に行く子が増えている印象がある。今回のみんなのようなある程度高学歴な若者の実感からすると、「若者の海外旅行離れ」といわれても実感がないんだろうね。

【神谷】確かに私の体感だと、海外へ行く子はよく行くけど、行かない子はパスポートすら持っていません。これはいい大学の学生の中でも二極化していると思います。

また、私のまわりでは、よく海外へ行く子の中でも、特に海外に対するモチベーションが高く、海外旅行に行くためにバイトに力を入れているのは、地方からの上京組に多い気がします。そして、その中でもひとりで海外旅行を楽しむ子は、上昇志向が強めかもしれないですね(笑)。

※神谷さんの発言について、表現を初出時から修正しました。(1月22日11時30分編集部追記)

【原田】この前、早稲田大学の総長とお話していたら、「早稲田の学生の70%が東京近郊出身になっている。多様性が減っている」と嘆いていた。そして、他の東京の大学でもこうした傾向になっているらしい。戦後、日本の政治の失政で、あらゆるものを東京に一極集中させてきたので、人口減少社会である今でも東京の人口は増え続け、今、代々東京出身の江戸っ子の若者が非常に多くなっている。現在41歳の僕の時代の慶應大学は地方出身者が周りにごろごろいたけど、今はだいぶ少なくなっているようだね。

代々東京出身者が増えるということは、「東京の田舎化」が進んでおり、東京において地元愛の強い「マイルドヤンキー」が急増している。マイルドヤンキーだらけになっている東京より、こんな時代にわざわざ地方から上京してくる若者の方がモチベーションが高くなっているのかもしれないね。

【佐藤】友達で、かたくなに「海外旅行には絶対行かない」って子がいて、行くのは大学の卒業旅行だけ。夜勤のバイトもしてる子なので、単純にお金も興味もない。

【高貫】お金を貯めたいから行かない、という人は結構多いのでは。

【原田】昔はお金なくても車を買ったり、海外に行ったりしていたのが日本の若者像だったんだけど、今の若者は無理をしなくなっているよね。

「チル」という価値観で生きている今の若者

【原田】あと、前提として、平成不況やデフレで日本のサラリーマンの給料はこの15年くらいで大体60万円くらい下がっているから、両親と同居している学生も以前より金銭的に余裕がなくなり、「海外旅行離れ」につながっている点は押さえておくべき。「海外に興味がないんじゃなくて、金がねーんだよ!」と言いたい若者は、かつてより多くなっているのは事実。ただし、この数年で景気回復と人手不足、さらにLCC(格安航空会社)の普及などで、その前提に変化が見られるようになってきている。

撮影=プレジデントオンライン編集部

【今野】私は上智大学なので、周りに海外志向の子が多くて海外に行きまくっています。特に男子より女子のほうが海外に行っている印象です。女の子のほうが親に甘やかされていて、親に旅行費を払ってもらってる子が多い。男子のほうがそれが少ないから、男子は海外より国内に行っている印象です。

【神谷】海外に行かないタイプは、面倒くさがりの子が多い印象かな。パスポートを取るのだって結構面倒くさいですしね。

【原田】今の若者を表すキーワードの一つに「チル(まったりする)」というのがあるね。最近の学生は、「ネフリでチルってる(ネットフリックスを見ながらまったりしている)」なんて言葉をよく使う。「チル」という価値観で生きている今の若者にとって、海外旅行の手続きや事前準備は基本的には面倒でしかないんだろうね。

【高貫】小さい頃から親に海外へ連れて行ってもらっていた子ほど、今も行っている印象です。

【原田】それは統計的にも本当にそうらしい。今日のメンバーも、小さい頃から親に海外に連れて行ってもらっていた人がきっと多い。2000年代の初頭から「格差」という言葉がキーワードになったように、出身世帯のさまざまな格差が、子供に与える影響が非常に大きくなっている。

現在アラフィフのバブル世代から現在アラフォーのポスト団塊ジュニアくらいまでは、そもそも親に海外に連れて行ってもらった人の比率が必ずしも多くないから、親に海外に連れて行ってもらったかどうかではなく、多くが個人の動機によるものだった。

が、今は個人の動機が減り、親が小さい頃に海外に連れて行ったかどうか、という「海外旅行の原体験」が非常に大きな影響力を持つようになっている。

また、特に今の若い人は、昔と比べて親とすごく仲が良くなってきているので、より親の影響を受けるようになっている。例えば、『ママっ子男子とバブルママ』(PHP新書)という本にも書いたんだけど、今の若年男子が化粧水を使い始めたきっかけって、母親からのススメが一番多いんだよね。

僕らの頃は、親に黙ってアジア各国をバックパックで放浪する、なんて若者がたくさんいたけど、今の若者たちは親と何でも話し合える子が多いよね。

【高貫】自分ひとりや友達とは行かないけど、家族と年に1回は行くという子もいますね。

【正田】それこそ、僕は年1で家族旅行してますよ。国内ですけど、箱根とか横浜のインターコンチネンタルホテルとか。

【須田】箱根は僕も家族旅行で行きました。

【神谷】この8月に家族と熱海に行きました。

【浅見】私も家族旅行はよくしますね。ここ最近だと箱根とか群馬の万座温泉とか。

【原田】大学生になっても普通に家族旅行しているんだね。僕なんか今でも恥ずかしくて母親と2人で外を歩くのが苦手だけどなあ。

やっぱり、今の若者は、親と仲がいいんだね。ある意味うらやましい。旅行業界は少子化と若者の旅離れにより、中高年ばっかりをターゲットとして見るようになっているけど、実は「子供や若者を撒き餌とした親」という市場が急拡大していることに気づくべきだよね。

【小野里】私は家族全員ではないですが、母と二人で行きますよ。

【原田】ママっ子男子とバブルママ』にも書いたけど、特に母親と子供の仲が良くなっているようだね。女子だけでなく、お母さんと二人で旅行に行く男子も増えているみたい。どうやらお母さんと二人でも、周りから変な目で見られる、ってことはなくなっているようだね。僕なんか41歳の今でも母親と2人で歩くのは恥ずかしいけどね。

非日常の写真が撮れたら、近くても「旅行」

【原田】友達同士だと、国内旅行はどの辺に行くの?

撮影=プレジデントオンライン編集部

【小野里】日帰りも多くて、川越、江ノ島、鎌倉、横浜みなとみらいとか。

【原田】川越や鎌倉はまだわかるとして、江ノ島や横浜も「旅行」扱いなの? 「お出かけ」じゃなくて?

【小野里】横浜の場合は千葉から出てきてくれてる友達もいたので、企画としては「旅行」です。

【原田】何をもって「旅行」というの? 移動距離?

【小野里】写真……かな。非日常の写真が撮れたら、それは「旅行」です。

【原田】なるほど。写真が「非日常」だったらそれはもう旅行なんだ。でも、六本木ヒルズでも非日常の写真は撮れるよ。

【小野里】いやー、あそこで撮ってたら恥ずかしいじゃないですか。

【原田】東京近辺在住者の若者にとって、六本木ヒルズは非日常ではあるけど、写真を撮るのは恥ずかしい場所なんだ。“都会都会”しているとダメってことなんだろうか。じゃあ、東京だけど“都会都会”していないとしまえんは?

【女性陣】ああ? はい、それは旅行です。

【原田】旅行かどうかっていうのは、距離じゃないんだね。

【正田】僕の気分だと、移動距離は短くても滞在時間が長ければ旅行です。

【原田】なるほど。六本木ヒルズは一日中は過ごさないけど、としまえんみたいな遊園地は一日過ごすもんね。

昔は移動距離の長さが旅行の定義の重要な因子だったけど、今は経済的に余裕のある若者でも、「安・近・短」な場所を「旅行」と言うケースが多くなっている。それって、今の若者がSNSによって人間関係数が増えた結果、すごく「忙しく」なったことも関係しているように思う。友人1グループあたりに割ける時間が少ないから、多くのコミュニティと関係を深めようと思ったら必然的に短い旅行を数多くこなすことになる。となると、世の調査で1泊以上の遠距離を旅行と定義している場合、「若者の旅行離れ」という認識は実は違っていて、「安・近・短」の旅行は意外とこまごま行っている可能性もあるわけだ。

【浅見】あと、外国人観光客がいるスポットに行くと、近くても「旅行だな」って思えますね。

【原田】六本木ヒルズや新宿のビックロや銀座にもたくさん外国人はいるじゃない。

【浅見】あ、いえ、欧米系のほうが多い場所ってことです(笑)。

【原田】中国人などのアジア系が多い場所はダメなんだ。じゃあ、欧米人に人気の新宿ゴールデン街も旅行になるんだね。確かにあそこ、最近は若者の間でも人気になっているもんね。ところで、昔は「青春18きっぷ」を使って安く国内を回る若者が多かったけど、今はどうなの?

【高貫】こないだ山形の銀山温泉に行った時に使いました。

【小野里】移動に時間がかかるから、私はあまり使わないです。

【牧之段】そうですね、友達と行くなら出発地からレンタカーを借りちゃいます。

【原田】鈍行列車でのんびり移動するプロセスも楽しいけどね。それこそピースボートで何カ月もかけて船で世界一周とか。昔からあるやつだけど。

【小野里】そういう長期旅行の費用を貯めるためにたくさん働くのは嫌です。自分の知らない世界を開拓する目的の旅行もあると思うんですけど、今の友達との関係を希薄にしたくないので。

【原田】友達の数が多いから、ひとりひとりとの関係性のケアが大変で、長期間旅をするとか、そのために長期間バイトをするとか、そういうことは嫌なんだ。やっぱり今の大学生は忙しくて、「ピースボート」なんかにのんびり乗って世界一周をする時間はないんだね。

「行き当たりばったりの旅」はしない?

【原田】友達と行く旅行と交際相手と行く旅行は違うのかな。

撮影=プレジデントオンライン編集部

【浅見】友達と行くのは夜の飲みがメインなので、比較的近場ですね。恋人とは地方に遠出して、宿と観光とご飯にお金をかけます。

【高貫】友達と行く時は過密スケジュールですが、恋人とはゆっくり楽しみたいのであまり予定を詰め込みませんね。

【原田】一方で「予定を立てない旅をしたい」若者が減っているという調査結果もあるんだけど。

【小野里】何日目にどこに行って、回るエリアはこの辺という程度は決めておきますよ。計画はゆるめに立てておいて、あとは現地の人に聞きます。

【原田】昔と違って今はスマホがあるんだから、行き当たりばったりで行っても、現地でいかようにも調べられると思うんだけど。

【佐藤】インスタ(Instagram)のストーリーズにある「質問」機能を使います。そのエリアに行った人におすすめスポットを聞き、返ってきた答えを参考に動く。

【須田】予定を立てない旅行に憧れはしますし、『水曜どうでしょう』で見ておもしろいなとは思いますけど、そんなことで悩んで時間を使いたくないんですよ。

【正田】昔の旅行って、決めの名所旧跡が1つ2つランドマークとしてあったから、そこさえ押さえておけば良かった。でも今は、SNSで評判が立つようなスポットが山ほどあるので、行かなきゃいけない場所が多いんです。

【浅見】私の場合、計画を立てるのは友達との旅行、立てないのは一人旅か恋人との旅行ですね。じゃあ計画を立てるのはどういう時かっていうと、「映(ば)えそうなスポットがある時」です。

【原田】インスタ映えね。撮らなきゃいけない写真がたくさんあるから、前もってある程度決めておかないと回りきれないわけだ。インスタ映えについては、詳しく聞きたいことがあるよ。多くの大人はこの「インスタ映え」という言葉を大いに誤解しているように思うから。(次回に続く)

原田曜平(はらだ・ようへい)
サイバーエージェント次世代生活研究所 所長
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年12月よりサイバーエージェント次世代生活研究所・所長。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『さとり世代』『ヤンキー経済』『これからの中国の話をしよう』などがある。TBS「ひるおび」レギュラー。

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